わたしを離さないで
カズオ イシグロ

とても美しい静かな調子で書かれた物語。設定の異常さ、というか本当のことであっても全く不思議はないのだけど、その異常さによる奇抜さや派手さは全くなく、その物語のなかの現実をまじめに生きている語り手がいるだけ。

そう、物語は臓器提供のために作られたクローンたちのお話。
設定自体の語りかける倫理的な問題もさながら、その設定の内容だけではない、なにか普遍的な問題も投げかけられているように感じた。
私たちは多かれ少なかれ、自分では選びようのない意味不明なものを背負って生きている。そのことについて思い悩んでもいいし思い悩まなくても良くて、結局自分のおかれた現実を、自分の目で見て体で感じて表現して、生きていく以外にどうしようもないんだ。そういうことを、強烈に突きつけられた気がする。

わたしを離さないで

わたしを離さないで